【カーブミラー開発物語-4】製品化への道。執念の省エネ技術とコストダウンへの挑戦

前回までの研究で、「ミラー内部の空気を撹拌するだけで結露を防ぐ」という基本原理は確立し、無事に特許として登録されました。しかし、研究室での成功と、製品として世に出すことは全く別の話です。

製品化のためには、避けては通れない大きな壁、「コストダウン」が待ち構えていました。

 

■ ライセンス戦略とコストの壁

 

たとえこちらが基本特許を持っていても、安心はできません。もし他社が、より安価に実現できる別の方法を開発し特許を取ってしまえば、こちらの優位性は揺らぎます。最悪の場合、互いの特許を使い合う「クロスライセンス」となり、ロイヤリティ(特許使用料)が全く入ってこない可能性すらあるのです。

そうなる前に、自らでコストダウンの道を切り拓く必要があります。そこで私が最初に着手したのは、開発の核心ともいえる**「消費電力を極限まで下げること」**でした。


 

■ 省エネへの挑戦【ステップ1】:湿度センサーをなくせ!

 

基本特許のアイデアは、夜の間ずっとファンを回し続けるという、いわば力技でした。しかし、本当に結露の危険がある時間帯は限られています。ならば、「必要なときだけファンを動かせばいい(間欠運転)」。これが省エネの第一歩でした。

問題は「いつ結露しそうになるか」をどう判断するか、です。通常であれば、空気の湿度を測る「湿度センサー」が必要になります。しかし、センサーはコストアップの大きな要因です。

ここで、私はある重要なポイントに気がつきました。

「放射冷却が起きるような気象条件なら、外の気温からおおよその露点(結露が始まる温度)は推測できるはずだ」

…ここが今回の肝です。推測するのです。このひらめきにより、高価な湿度センサーを丸ごと省略できる道筋が見えました。(さすが自分!と心の中でガッツポーズです)

上のグラフが、この制御のイメージです。鏡の温度を監視し続け、予測した露点に近づいた瞬間だけファンをONにする。これにより、不要な運転を徹底的に排除し、消費電力を劇的に削減することに成功しました。 (参考:特許第4571706号)


 

■ 省エネへの挑戦【ステップ2】:0.1Wを削り出せ!

 

自分でも「しつこい」と思いますが、私の探求はここで終わりませんでした。ステップ1の間欠運転では、ファンがONの期間は、常に100%の力で回転していました。しかし、本当にそこまでの風速が必要でしょうか? もしかしたら、もっと弱い風でも十分かもしれない。だとしたら、ONの間の電力はまだ無駄になっているはずです。

そこで、さらなる省エネ、究極の効率化への挑戦として、新たな制御方法を考案しました。

「ONの期間中だけ、さらに高速でON/OFFを繰り返し、ファンに供給する実質的な電力を下げる」

つまり、大きな波である間欠運転の「ON」の山の中に、さらに小さなON/OFFの波を無数に作り出すイメージです。これにより、ファンを100%の力ではなく、50%や30%といった、よりゆっくりとした速度で回転させることが可能になります。

この方式に正式な名前はありませんが、無理やり名付けるなら**「ダブルPWM方式」**とでも呼ぶべきでしょうか。もちろん、どこまで消費電力を下げても機能上問題ないか、その限界点を実験により突き止めることにも成功しました。 (参考:特願2010-104995)


 

■ 私が「究極の省エネ」にこだわる、たった一つの理由

 

「なぜ、そこまでして0.1Wの消費電力にこだわるのか?」と不思議に思われるかもしれません。

答えは、コストとサイズに直結するからです。

このカーブミラーは、太陽電池とバッテリーで独立して動作します。もし、消費電力を半分にできれば、電源である太陽電池も、蓄電池であるバッテリーも、半分の大きさで済むのです。これは、製品コストに絶大なインパクトを与えます。

部品を供給してくれる下請け企業を叩いてコストを下げるよりも、自らの知恵を絞って根本的な消費電力を減らす方が、よほど健全で、本質的なアプローチだとは思いませんか。

さて、この話、まだ続きます。 次は、この制御方法だけでなく、ミラーの構造そのものに手を入れて、さらなる効率アップに挑戦します。しつこいですね(笑)。