そらテクノロジーは、放射冷却で室温を下げる特許技術です。建物の構造だけで、涼しく快適に過ごせる家づくりを目指しませんか?
株式会社ソロモン

室内からの赤外線放射によるアクティブ冷却技術

地球温暖化の進行に伴い、夏季の冷房負荷をいかに低減するかは建築における喫緊の課題です。これまでの対策は、断熱や遮熱によって「いかに熱の侵入を防ぐか」という受動的なアプローチが中心でした。しかし本稿では、そこから一歩進み、室内に存在する熱を、窓を通して天空(宇宙空間)へ直接放射し、能動的に排出するという新しい冷却アプローチを提案します。

この技術を最大限に活用するには、建物の素材や形状、さらには立地条件までを統合的に考慮した、新たな設計思想が不可欠です。

 

1. 冷却ポテンシャルを最大化する建築計画

 

このアプローチの基本は、建物自体が持つ「熱を捨てる能力」を設計段階でいかに高めるか、という点にあります。鍵となるのは「窓の役割の再定義」と「運用計画」です。

1.1. 窓の再定義:「採光」から「放熱」へ

従来の窓の主な役割は採光と換気でした。しかし、この冷却アプローチでは、窓は「室内の熱を排出するための放射ポート(放射窓)」という新たな役割を担います。

室内の床、壁、家具などが保持する熱は、赤外線として常に放射されています。この赤外線を効率よく透過させる特性を持つガラスを選定した「放射窓」を設けることで、室内の熱は直接、温度の低い天空へと放出され、冷却効果が生まれます。

1.2. 設計と運用の工夫:日射制御と能動的な熱排出

ただ放射窓を設けるだけでは、日中の太陽光が侵入し、逆効果になりかねません。そのため、「熱を入れる時間」と「熱を捨てる時間」を明確に分け、それをコントロールする設計と運用が極めて重要になります。

  • 日射の徹底的な制御: 夏の高い太陽光を遮る深い庇(ひさし)や、西日を避ける室配置といったパッシブデザインの基本は、熱の侵入を減らす上で大前提となります。

  • 「放射窓」とシャッターの連携: このアプローチの核となるのが、窓と外部シャッター(ブラインド等も可)を組み合わせた能動的な運用です。例えば、天空に向けて「放射窓」を設置し、以下のように運用します。

    • 日中(太陽光が当たる時間帯): シャッターを完全に閉鎖し、日射熱の侵入を徹底的に防ぎます。

    • 夜間・日陰時: シャッターを開放し、室内に溜まった熱を窓から天空へ最大限に放射させます。

    この運用を自動化(例:タイマー制御の電動シャッター)することで、居住者が不在の日中にも家全体の熱を排出し、夕方の帰宅時には室温が顕著に下がっている快適な環境を創出できます。これにより、エアコンの立ち上がり負荷を大幅に削減することが可能です。

 

2. 立地条件の戦略的活用

 

この冷却手法は、建設地の特性を読み解き、戦略的に利用することで、さらにその効果を高めることができます。

2.1. 都市部における設計上の制約

敷地が限られ、建物の形状や窓の配置の自由度が低い都市部では、天空への視野(天空率)をいかに確保するかが課題となります。高窓や天窓(トップライト)を「放射窓」として活用するなど、限られた条件の中で最大の放射効果を得るための工夫が求められます。

2.2. 周辺環境の再評価:「ビル陰」の絶大なメリット

従来、日照時間が短い「ビル陰」の土地は不利と見なされがちでした。しかし、この冷却アプローチにおいては、「ビル陰」は極めて有利な条件に変わります。

日中の直射日光が隣接する建物によって遮られることで、建物の躯体への蓄熱が大幅に抑制されるだけでなく、「放射窓」を日中から開放し、冷却を開始できるという決定的なメリットが生まれます。日射というペナルティなしに、一日を通して長く熱を排出し続けることができるため、ビル陰の土地は、まさに理想的な「アクティブクーリングサイト」となり得るのです。

 

結論:設計と運用を一体で考える新しい建築

 

室内からの赤外線放射による冷却は、単なる建材や設備の導入に留まりません。窓の配置、シャッターの有無、そしてそれらをいつ、どのように作動させるかという「運用計画」までを建築設計の段階で一体として組み込む必要があります。

これは、建物に「熱を能動的に排出する機能」を実装する、新しい設計思想への転換です。このアプローチを追求し、それぞれの条件下で最も効果的なノウハウを蓄積していくことこそ、これからの脱炭素社会における、持続可能で快適な建築の姿と言えるでしょう。