そらテクノロジーは、放射冷却で室温を下げる特許技術です。建物の構造だけで、涼しく快適に過ごせる家づくりを目指しませんか?
株式会社ソロモン

【カーブミラー開発物語-0】すべては一本の依頼から始まった。18年に及ぶ戦いの幕開け

これは、今なお続く私の放射冷却技術に関する研究開発、そのすべての始まりの物語です。

 

始まりは、一本の依頼から

 

1993年、当時私が勤めていた会社に、あるカーブミラーメーカーの担当者から一本の連絡がありました。

結露や霜で曇らないカーブミラーを開発できませんか?

当時すでに、市場には曇り止め対策を施した製品が3種類ほど存在していました。

  • 蓄熱材内蔵タイプ: 日中の熱を蓄え、夜に放出する。

  • ヒーター内蔵タイプ: 電熱線でミラーを温める。

  • 光触媒塗布タイプ: 結露を水滴ではなく水の膜にし、視界を確保する。

しかし、担当者が言うには、どれも一長一短で決定的な解決策にはなっていないとのこと。例えば、蓄熱材タイプは特定の気象条件で逆に結露してしまったり、ヒーター式は電源確保や電気代が問題になったり。光触媒も、霜には効果が薄いという課題がありました。

これらはすべて、結露や霜が「発生した後」にどうにかしようとする対処療法です。私は、この問題を根本から解決するには、まず「なぜ結露が起きるのか」という原因そのものを深く理解する必要があると考えました。

その根本原因こそが「放射冷却」でした。


 

核心の謎:放射冷却とは何か?

 

「放射冷却」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、私たちの非常に身近にある現象です。

電気ストーブの前に立つと暖かいですよね。これは、ストーブからあなたへ赤外線という形で熱エネルギーが飛んできているからです。逆に、大きな氷の塊の横に立つと、何も触れていないのにヒヤッと感じます。これは、あなたの体から氷へ熱が奪われているのです。

このように、熱は常に**「温度の高い方から低い方へ」**と移動する性質があります。

夜、地球が冷えるのも全く同じ原理です。日中に太陽で温められた地面や建物が、夜になるとその熱を広大な宇宙空間に向かって放出します。物質がほとんどない宇宙空間は、絶対零度(-273℃)という極低温の世界。地表との間に圧倒的な温度差があるため、地球の熱はどんどん宇宙へ逃げていってしまうのです。これが放射冷却の正体です。


 

大発見:毎日の観察から見えた「結露の法則」

 

この根本原因を肌で理解するため、私は毎晩外に出て、カーブミラーがどんな状況で曇り始めるのかを、ひたすら観察し続けました。すると、ある非常に面白い法則に気がついたのです。

「結露は、上を向いた面から先に発生する」

例えば、自動車を見ると、まず屋根やボンネットが結露し始め、垂直なドアの面が結露するのはその後。そして、下を向いている面はほとんど結露しません。カーブミラーの「ひさし」の下側が決して曇らないのも同じ理由でした。

最初、私は「霜が降りる」という言葉通り、結露の元が雨のように上から降ってくるのかと思いました。しかし、空から何かが降ってくる気配は全くありません。

そこでハッと気づいたのです。 「空は冷たく、地面は暖かい」

つまり、上を向いた面は、冷たい宇宙空間に向かって熱をどんどん放出(放射)して冷えていく。一方、地面を向いた面は、地面からの熱を受けているため冷えにくい。この単純な事実が、結露する順番の差を生んでいたのです。


 

逆転の発想:「結露予知センサー」の誕生

 

この発見が、開発における最大のブレークスルーとなりました。

カーブミラーはほぼ垂直に立っています。ということは、水平な面よりは結露しにくいはずです。ならば、

「カーブミラーの近くに『もっと結露しやすい斜めの板』を置いておき、それが結露した瞬間に、カーブミラー本体が結露する前にヒーターを少しだけ動かせばいいのではないか?」

これが「結露予知センサー」のアイデアでした。結露してから温めるのではなく、結露を「予知」して先手を打つという逆転の発想です。

早速、太陽電池とバッテリーで駆動する試作品を開発。斜めに設置した小さな鏡が結露するのを赤外線センサーで検知し、カーブミラー本体とセンサーの鏡裏にあるヒーターを短時間だけ作動させる仕組みです。

実験の結果は驚くべきものでした。一晩のヒーター通電時間は、わずか1分間の作動が5回、合計たったの5分間。最小限のエネルギーで、一晩中カーブミラーの結露を完璧に防ぐことに成功したのです。

この1993年の小さな成功体験が、私の放射冷却研究の原点となりました。この物語の続きは、今もなお、新たな挑戦へと続いています。